圧力トランスミッタの動的特性
05. 11月 2025

日常生活のペースがますます加速しているのと同様に、圧力センサとその測定媒体に求められる要件も進化を続けています。多くのアプリケーションにおいて、正確な測定だけでなく、高速な測定も必要とされます。これには測定精度に加え、センサの動的挙動が特に重要になります。シンプルに言うと、動的挙動は圧力変化がセンサ出力の信号変化に反映されるまでの時間を指します。
決定的な要因は電子回路の限界周波数、サンプリングレート、あるいはそれに類似したパラメータであると認識されがちですが、これは実際には一側面に過ぎないのです。
信頼性の高い評価を行うには、オイル封入された圧力トランスデューサカプセルとネジを備えた圧力センサヘッドから、電子回路を内蔵した中間部、電気インターフェースに至るまで、センサシステム全体を考慮する必要があります。ユーザーの視点からすると、圧力センサはシステム全体のほんの一部に過ぎません。

センサにはどれほどの速度が必要なのか?センサの動的特性に真に影響を与える要素とは何か?本ブログでは、電子回路だけでなくセンサ設計全体が重要である理由を解説します。ミリ秒単位の速度が求められる典型的なアプリケーション例を紹介し、テスト結果から得られた発見を提供するとともに、ご要望に沿った最適なセンサ選定をお手伝いします。
圧力トランスミッタの速度に関連するパラメータ
テクニカルデータシートには応答時間、帯域幅、サンプリングレートといった値がよく記載されています。しかし、これらの値は正しい文脈で解釈された場合にのみ意味を持ちます。
様々な物理的および技術的パラメータが、圧力トランスミッタの動的特性を評価するのに役立ちます。
以下の用語を理解するには、特定の電子回路や出力信号に関係なく、アナログとデジタルの理論的な違いを知ることが重要です。多くの用語は直接の比較はできません。何故なら両方の信号タイプに当てはまらないか、単に意味を成さないからです。
アナログ vs. デジタル
アナログという言葉の語源から、それは連続的で段階のないことを意味します。これは、数値データが無限の値を持つ、値と時間に連続した信号を表します。すなわち、非常に高いダイナミックレンジが可能です。

デジタルとは数えられることを意味します。数学においては、有限個の値を持つ定義された数として、離散的で段階的な値(例:0と1)を指します。

データシート上のパラメータ
基本的に、KELLER Pressureのデータシートには4つの動的仕様が含まれており、これらはシリーズによって異なります。
1. 起動時間 / 電源投入時間
供給電圧が印加されてから、センサが有効な出力信号を出すまでの時間を表します。
省エネのために電源のオン/オフを切り替えるシステムに関係します(データシートに記載、0~99%に対する典型時間としてデータシートに記載)。

2. 限界周波数 / 帯域幅(fg = -3dB点)[Hz]
圧力変化が最大3dB(振幅の約70%)の減衰で伝送できる周波数上限を表します。この周波数を超えると、信号は次第に減衰します。本システムはローパスフィルタのように動作します。
帯域幅はアナログシステムの典型的な特性であり、デジタルシステムのサンプリングレートと混同としないよう注意が必要です。例:ピエゾ抵抗式センサの限界周波数は10kHz以上、電子機器(例:HB-Line)は60kHzまで対応するが、製品によっては有効利用範囲が大幅に低くなる場合があります。


3. サンプリングレート(Sample Rate)[SPS, Hz]
1秒あたりに信号が内部で記録・処理される頻度を示します。当社のデータシートでは、この値は「内部測定レート」として記載されており、通常HzまたはSPS(サンプル毎秒)で表します。

注:アナログ出力においては限界周波数が、デジタル出力においてはサンプリングレートがそれぞれ決定的な要素です。
Xラインはアナログとデジタルの2出力を備えているユニークな製品です。どの出力信号を選ぶにしても、データシートには両方の値が記載されています。
4. 共振周波数
センサシステムが振動を開始する周波数です。アプリケーションがこの周波数に近いと、望ましくない振動、信号の歪み、さらには機械的過負荷が発生する可能性があります。共振周波数は主に機械構造、特にダイアフラム、オイル充填、圧力接続に依存するところが大きいです。
その他パラメータ
以下の用語はセンサ動作特性にとって重要となる場合がありますが、全てのデータシートに明記されているわけではありません。
応答時間
圧力ジャンプ(いわゆるステップ応答)後、センサが最終値に対し決められた割合(例:63%、90%、99%)に到達するまでの時間間隔を表します(例:t63 または t90)。
「高速」電子回路を搭載したアナログセンサ(例:HB回路)の場合、応答時間は通常10マイクロ秒未満です。一方、33X等Xラインのデジタルシステムでは、選択した出力信号により、約2~4ミリ秒です。
デッドタイム/遅延
入力側の実際の圧力変化と、出力における最初の認識可能な反応との間の遅延。アナログセンサでは、測定がリアルタイムで行われるため、デッドタイムは無視できます。デジタルセンサでは、デッドタイムは応答時間の一部であり、単一の値として規定していません。

センサ帯域幅と電子回路サンプリングレートの区別
デジタルシステムにおいては特に、高いサンプリングレート = 高い動的特性と捉えられがちです。しかし、この仮定は部分的にしか正しくありません。どの圧力カーブが記録可能であるかを定義するのがセンサの帯域幅である一方、信号がサンプリングされる頻度、つまり内部で記録される頻度を示すのがサンプリングレートです。機械部品が追いつけないのであれば、高速なアナログ-デジタルコンバーターは意味を成さず、その逆もまた然りなのです。
これらの用語はどちらも圧力変化に対しトランスミッタがどれだけ迅速かつ確実に反応できるかを表すものですが、常に組み合わせて考えるべきです。
動的特性への要求が高いアプリケーション典型例
ある特定のアプリケーションにおいては、圧力トランスミッタの動的特性が中心的な役割を果たします。
油圧システム
油圧アプリケーションでは、負荷の変化やバルブ動作に対して迅速な圧力フィードバックが不可欠です。ここでは特に高帯域幅かつデッドタイムが最小限なアナログトランスミッタが求められる傾向にあります。デッドタイムが短いほど、センサはより迅速にフィードバックができ、制御バルブの操作などが可能になります。逆にデッドタイムが長すぎると、制御ループの反応遅れや不安定な動作につながります。
当社の純粋なアナログ製品および21Y等のYラインは、kHzレベルの帯域幅で適した動的特性を有しています。堅牢な設計と優れたベント構造(例:フラッシュ型G1/4圧力接続)から、特に脈動があるシステムに適した製品です。

テストベンチ
ポンプやバルブの特性評価および試験では、急激な圧力上昇・下降を含む圧力カーブをリアルタイムで記録する必要があります。21PHB等のHBラインはアナログ信号処理と最大20kHzの帯域幅を備えており、こうしたタスクに最適な製品です。ノイズと遅れの少ない信号が、圧力ピークの精密な解析を可能にします(詳細はブログ「クローズドシステムにおける圧力ピーク」を参照)。コンパクトなトランスデューサと組み合わせることで、複雑な試験装置の構築も実現可能です。
特に研究や品質管理(例:リークテスト)においては、動的圧力カーブを全て記録しておくことが非常に重要です。使用するセンサは高速かつ低ノイズの信号を出力できるものでなければなりません。
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水素アプリケーション(H2)
水素自動車の燃料補給開始または停止時の数秒間のあいだに、過度現象と呼ばれる高い圧力上昇と圧力ピークが発生します。これを確実に検出するには、堅牢な設計の高速ピエゾ抵抗型トランスミッタが必要です。オイル封入された圧力トランスデューサと高い動的特性を活かし、安全機能や故障検出アルゴリズムも確実に実装できます。
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動的特性に影響を与える要因
センサの動作を遅らせる要因が何なのかを調べるため、様々なセンサ構成での試験を外部の研究所で実際に行いました。以下の点がセンサの動的特性に直接的な影響を及ぼすことが分かりました:
ベント(通気)は極めて重要です
流体試験で分かった最も重要な発見は、動的特性の最大の阻害要因はシステム内の気泡であるという点でした。特に油圧システムでは、わずかでも空気が残っているとステップ応答に顕著に影響を及ぼします。そのため、M5やフラッシュ型G1/4圧力接続内部の圧力トランスデューサの試験結果は、特に良好でした。
電子回路が違いを生むが、それだけではない
2種類の電子回路(60kHz帯域幅のHB電子回路と1.2kHzの電子回路)を比較すると、HB電子回路は、1.2kHz電子回路では失われてしまう圧力カーブの高周波成分を可視化できることが明らかになりました。ただし、電子回路が伝達できるのは、センサが機械的に通過を許容する成分に限られます。
適切なセンサをどのように選べばよいですか?
センサを購入するにあたり、データシートに並んでいる値だけでは不十分な場合がほとんどです。その代わり、体系的な評価を行うことが有益です。
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実際にどのような動的特性が必要ですか?
t90 = 10 ms で十分か、それともシステム応答が 1 ms 未満であることを要求しますか? -
計画された構造における動的特性の弱点はどこにありますか?
長い配管、フィルターディスク、または粘性媒体は、高速センサのメリットを打ち消してしまう可能性があります。 -
帯域幅かサンプリングレート、より重要なのはどちらですか?
アナログ出力においては帯域幅または限界周波数が重要です。デジタルシステムではサンプリングレートが決定的ではあるが、利用可能な帯域幅の範囲内でしか意味をなさない。 -
システム要求を満たしているのはどの製品シリーズですか?
高い動的特性のアナログシステム:純粋アナログ、HBライン(例:M5HB)
高サンプリングレートの精密デジタルアプリケーション:Xライン
高帯域幅のアナログアプリケーション:Yライン、Cライン
低ダイナミクスの簡易アプリケーション:Dライン
大切なメッセージ
動的特性を理解すること、それはすなわちシステムを理解することです。圧力トランスミッタの動的特性は多くの構成要素の相互作用から生じるものであって、固定化された特性ではありません。最適化された電子回路を備えたモダンなピエゾ抵抗型圧力センサ(例:HBライン)は確かに高速応答ですが、決定的な要因はいつもシステム全体なのです:

この連鎖のあらゆるリンクが動的特性の制限につながる可能性があります。制限の原因は電子回路ではなく、機械的・流体的な結合にあることがほとんどです。
帯域幅、サンプリングレート、応答時間、デッドタイム、ステップ応答といった用語を正しく分類することではじめて、適切なセンサを選択し予期せぬ性能問題を回避することができます。













